「御成敗式目」、裏返すと当時の日常が分かる説

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かぴです。

鎌倉幕府の執権・北条泰時(北条義時の子、北条政子の甥)が、当時の武士の習慣や生活に合わせて、裁判の基準などを定めるために作ったと言われる「御成敗式目」。今回はこれについて考えていきたいと思います。

 まず、前提なんですが…なぜ社会やスポーツには「ルール」があるのでしょうか?

 誰かが自分勝手に決めるものなんでしょうか?…いえ、違います。

 「破られたら困る人がいる」から、ルールがあります。

 これ、裏返して見れば、それをやられて(破られて)困った人が出たことがあるから」ルールに盛り込まれているとも言えます。法律レベルで決まっているなら、それが今まで何回もあったことである可能性が濃厚です。みんなやらかさず、やらかしたとしても誰も困らなかったら、別にルールとして明文化する必要なんてないですからね。

 例えば公園で利用者が「ゴミを持ち帰る」という行為について、この行動は誰も困らないし、当たり前にみんなやっているならばきれいな環境が保たれるわけだし別にわざわざルールとして明文化しなくても良いですよね。じゃあ、「ゴミを持ち帰らない」ならば?…公園内のそこかしこにゴミが放置され、カラスに荒らされたり虫が湧いたりします。また、ゴミだらけになると治安が悪くなるんですよね。公園の近所に住んでいる人たちは困る。
 そうなると、この問題を解決するために、「ゴミを持ち帰りましょう」という「ルール作り」をして公園の利用者に守ってもらうことが必要になる。…こういう感じです。

 さて、「御成敗式目」も、鎌倉武士に向けたルール(法律)を定めたものです。
どんな内容か、改めて見てみましょう。

「御成敗式目」、裏返してみよう。

「御成敗式目」の内容

まずは、御成敗式目に書かれた内容を見てみましょう。たくさんあるので、条文をパッと見て内容が分かりやすいものだけを紹介します。(参考資料:玉川学園「現代語訳「御成敗式目」全文」

第1条:神社を修理して祭りを大切にすること。神社を修理する際に領地を持つ神社は小さな修理は自分たちで行い、手に負えない大きなものは幕府に報告すること。内容を調べて良い方法を取る。
第2条:寺や塔を修理して、僧侶の勤めを行い、後々非難されるようなことはしてはいけない。寺の者を勝手に使ったり、お勤めを果たさない僧侶は直ちに寺から追放すること。
第4条:守護が勝手に罪人から所領を没収することは禁止する。重罪は丁寧に取り調べた上で幕府に報告し、その指示に従わねばならない。重罪人といえどその際しの住む屋敷や家具を没収してはならない。
第10条:言い争いや酔った勢いでの喧嘩であっても相手を殺してしまったら殺人罪であり、犯罪者は死刑か流罪とし財産を没収する。ただし、罪人本人以外の家族が無関係であるならば、その者たちは無罪であり、これは傷害罪についても同様である。
第12条:争いの元である悪口はこれを禁止する。重大な悪口は流罪とし、軽い場合でも牢に入れる。裁判中に相手の悪口を言った者はただちにその者の負けとする。裁判の理由がないのに訴えた場合はその者の領地を没収し領地がない場合は流罪とする。
第13条:他人に暴力をふるうことは恨みを買うことであるからその罪は重い。御家人が相手に暴力をふるった場合は領地を没収する。領地がなければ流罪、御家人以外は牢に入れる。
第28条:いつわりの訴えを起こしてはならない。言葉巧みに人を騙すことの罪は大変重い。所領を望んで嘘の訴えを起こした者はその者の領地を没収する。領地がない場合は流罪とする。また役職がほしいために嘘をついた者はその職に就くことはできない。
第42条:領内の農民が逃亡したからといって、その妻子を捕まえて家財を奪ってはならない。未納の年貢があるときはその不足分のみを払わせること。残った家族がどこに住むかは彼らの自由に任せること。
第43条:理由もなく他人の領地を奪い年貢や財産をとることは違法であるから年貢はすぐに返納すること。これを行った者の所領は没収し、所領を持たないものは流罪とする。
第50条:暴力事件が起きた時、その詳細を調べに行くことは許されるが、一方に加勢するために行くことは罰せられる。
(参照:玉川学園)

途中から読む気をなくした人も多いと思います(笑)

さて、前置きに書いた通り、ルールとは「それをやられて(破られて)困った人が出たことがあるから」盛り込まれていることが非常に多いです。

裏返してみましょう。「御成敗式目」は最早武士の”法律”なので、複数人いたことが考えられるので複数形で表記します。

「御成敗式目」、裏返してみた。

第1条:神社を修理して祭りを大切にすること。神社を修理する際に領地を持つ神社は小さな修理は自分たちで行い、手に負えない大きなものは幕府に報告すること。内容を調べて良い方法を取る。
 →神社の修理や行事が疎かになることがある。領地を持つ=それなりに裕福なはずの神社なのに小さな修理をいちいち幕府に頼んでくる

第2条:寺や塔を修理して、僧侶の勤めを行い、後々非難されるようなことはしてはいけない。寺の物を勝手に使ったり、お勤めを果たさない僧侶は直ちに寺から追放すること。
 →寺や塔が壊れても修理しない、お勤めも疎かにする僧侶がいた。寺の物を勝手に使ったり、お勤め(祈祷など)もしない僧侶がいた。

第4条:守護が勝手に罪人から所領を没収することは禁止する。重罪は丁寧に取り調べた上で幕府に報告し、その指示に従わねばならない。重罪人といえどその妻子の住む屋敷や家具を没収してはならない。
 →守護たちが勝手に罪人から所領を没収していた。罪を雑に取り扱って幕府に報告しなかった。罪人の妻子がまだ住んでいるにも関わらず屋敷や家具を没収していた。

第10条:言い争いや酔った勢いでの喧嘩であっても相手を殺してしまったら殺人罪であり、犯罪者は死刑か流罪とし財産を没収する。ただし、罪人本人以外の家族が無関係であるならば、その者たちは無罪であり、これは傷害罪についても同様である。
 →言い争いや酔った勢いの喧嘩で相手を殺してしまう人たちがいた。また、罪人本人以外の家族も有罪とされることがあった。

第12条:争いの元である悪口はこれを禁止する。重大な悪口は流罪とし、軽い場合でも牢に入れる。裁判中に相手の悪口を言った者はただちにその者の負けとする。裁判の理由がないのに訴えた場合はその者の領地を没収し領地がない場合は流罪とする。
 →軽重問わず悪口が飛び交った。裁判中に相手の悪口が飛び交っていた。裁判する理由がないのに訴えを起こした人たちがいた。

第13条:他人に暴力をふるうことは恨みを買うことであるからその罪は重い。御家人が相手に暴力をふるった場合は領地を没収する。領地がなければ流罪、御家人以外は牢に入れる。
 →他人に暴力を振るう人たちがいた。

第28条:いつわりの訴えを起こしてはならない。言葉巧みに人を騙すことの罪は大変重い。所領を望んで嘘の訴えを起こした者はその者の領地を没収する。領地がない場合は流罪とする。また役職がほしいために嘘をついた者はその職に就くことはできない。
 →いつわりの訴えを起こした人たちがいた。言葉巧みに人を騙す人たち、役職目当ての嘘をつく人たちもいた。

第42条:領内の農民が逃亡したからといって、その妻子を捕まえて家財を奪ってはならない。未納の年貢があるときはその不足分のみを払わせること。残った家族がどこに住むかは彼らの自由に任せること。
 →領内の農民が逃亡し、その妻子を捕まえて家財を奪う人たちがいた。未納の年貢に追加で支払わせていた。残った家族の住む場所を指定していた。

第43条:理由もなく他人の領地を奪い年貢や財産をとることは違法であるから年貢はすぐに返納すること。これを行った者の所領は没収し、所領を持たないものは流罪とする。
 →理由もなく他人の領地を奪い年貢や財産を取る人たちがいた。

第50条:暴力事件が起きた時、その詳細を調べに行くことは許されるが、一方に加勢するために行くことは罰せられる。
 →暴力事件が起きて、それに加勢するためだけに駆け付ける人たちがいた。

北条泰時さんのお気持ち推察

 御成敗式目の現代文バージョンを読んでいると、かなり具体的な例を取り上げているものも多いんですよね。現実としてあったことであるのが察せられます。幕府には、御家人たちや所領の農民たちから様々な訴えが寄せられていたそうですから、御成敗式目が出来る前はそれらを整理して、1件1件解決策を考えていたということですよね。非常に大変だったでしょう。「御成敗式目」を作った北条泰時も、もちろん「御成敗式目」が定められる前の様子は直接見たり聞いたりしていたはずで…。いやはや、上に書いたような様子ばかり聞いていたら、めまいがしてしまいそうです。北条泰時としては、ひょっとしたら「もう勘弁してくれ~!」と思っていたかもしれません。
 御成敗式目で裁判の基準が定められたことにより判決はスピーディになったかもしれませんが、御成敗式目に盛り込まれたルールは「よくある訴え」たちから定めたものでしょうから、細かいものは結局幕府内で考えねばならなかったでしょう。いやはやほんと、お疲れ様です…と思いました。

まとめ

「御成敗式目」、裏返すと、結構な鎌倉武士たちの日常というか、「やらかし」が見えてくるのではないでしょうか。

 中には信じられないものもありますが、しかし、私は昔の人だから素行が悪かった、とは思っていません。わりと「現代にもこういう人いる~!」と思ってしまいました。特にサボる人とか、悪口言う人とか、喧嘩ふっかける人とか、人のものを不当に奪う人とか、喧嘩を面白がって観に行って加勢する人とか。ニュースやSNSで話題になることも日常茶飯事ですよね。

 皆さんは、どう感じたでしょうか?

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